◆なにを笑っているのか、藤原兼家
屋敷に戻った道長は道兼に詰め寄る。6年前に人を殺したのか、と。
「虫けらのひとりやふたり殺したとて……」そう言う道兼に殴りかかる道長。道兼、ロクなことを言わない。さらに道長が悪い、あの日、自分を苛立たせたからだと続ける。あの女が死んだのもお前のせいだ、と。
こうして人のせいにすることが道兼の器の小ささを証明している。一方でそんな自分を父は守ってくれた、と主張することで、自分の存在価値を高めようとする虚しさ。
たぶん、道兼本人も自分が兄の道隆(井浦新)にも、道長にも劣っていることを子どものころから分かっていたのだろう。それゆえの性格。父である兼家もそれを分かっていて、自分の都合よく道兼を使っている。
怒り、道兼に殴りかかった道長を見た兼家は満足そうだ。道長にこのような熱い部分があったとは、藤原家は安泰だ、と笑う。
自分の家のこと以外はどうでもいいのだ、結局は。
ここで、道長が父に染まるか、己を貫くか。どちらの道にせよ、その過程も興味深い。
そんな兼家は自分の孫を天皇にするために手段を選ばない。
藤原忯子(井上咲楽)が花山天皇(本郷奏多)の子を身ごもったと知ると、安倍晴明(ユースケ・サンタマリア)に呪詛させようとする。
自分の命を削ることになる、と言う安倍晴明だが、兼家も引かない。もはや、兼家ひとりの依頼ではない。政にやる気を出している花山天皇が出した荘園整理令。これにより兼家だけではなく、有力な貴族たちは花山天皇に反発心を抱く。
灯りを消した室内。御簾の向こう側には貴族たちがズラリと。呪詛しなければどうなるか分かっているな? という晴明に対する兼家の圧だ。
花山天皇の存在は厄介だ。しかし、貴族たちが一致団結し、花山天皇を下ろす動きになりつつあることに兼家にとっては御の字だろう。時代が自分を求めている、と思っても仕方がないかもしれない。
それにしても、安倍晴明があっさりと呪詛を引き受けたら、集合した貴族たちの出番はなかったのだろうか……。