いやーあのねえ、よくないよ。「奪われるのは」じゃないんだよ。奪うんでしょ、あんたが。この物語は主人公が五感を失っていくという悲劇であって、雨ちゃんという女の子に負荷をかけることによって見る人の感情を揺り動かそうとするドラマです。負荷をかける主は、もちろん死神だ。
気に食わないのは、この死神が「なぜ雨ちゃんの五感を奪うか」については、別に不明でもいいんです。わけのわからない奴が出てきて、あなたの五感を奪うという。なんだかわからないけど、とにかく太陽くんの命を助けたいという一心で、それを受け入れる。倫理的には問題あると思うけど、辻褄が合ってないわけじゃない。だけど、それを背負えよ、と思うわけです。背負えよ、泥棒の顔をしろよ。
「奪われるのは、嗅覚です」
この死神は、なんで他人事なの? 受け入れたのは雨ちゃんであって、自分は関係ないって言いたいの? 少なくとも、「この男を殺すのか」という状況で、拒否できない提案をしたのはあなたの意思でしょう。他人事にするなよ。
これどういうことかというと、このドラマは一連の五感喪失について「過酷な奇跡」と表現しているわけですが、主人公に負荷をかけることに対する作り手の覚悟が決まってないということなんです。作り手側が、雨ちゃんの痛みを背負う覚悟がない。覚悟がないから「次に私が奪うのは、あなたの嗅覚です」と言えないんです。
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