◆「論破」で終わりにしない展開が気持ち良い
田代と鹿島は居心地が悪くなりその場を去ろうとするが、睦実は「話し合いましょう、たとえわかりあえなくても」と歌い出す。居酒屋は急にミュージカルステージとなり、睦実は話し合うことの必要性、さらに田代は組織に期待せずに心を殺して働いている現在の心境を歌に乗せて吐露。“開演”した時は困惑していた市郎だったが「我慢しなくたっていいだろ、『幸せだ』って言いづらい社会、なんかおかしくないかい?」と歌い、「『幸せだ』って叫ぶ俺の価値観も認めてくれよ」と訴える。
ひとしきり歌って満足した睦実は「話してもラチがあかないんだから歌ってもダメですよね」と急に絶望感をポツリ。すると“パワハラ被害者”の加賀が登場。彼女も歌に乗せながら、睦実から優しい言葉ばかりをかけられ、叱ってもらえなかったことが苦しかったと話す。それを聞いた睦実は「それは言ってくれないとわからない」と言って笑顔を浮かべ、「>話し合えて良かった」と本音をぶつけ合えたことに満足する様子だった。
根性論で上から従わせる昭和、過剰な配慮が求められて腫れ物に触るように接しなければいけない令和。どちらが正しいか間違っているかではなく、結局はいつの時代も話し合わなければいけない。市郎が田代を論破するような展開になったが、ただただ田代を言い負かして終わりにするのではなく、何が人付き合いで大切なのかを示す内容で見ていて気持ち良かった。また、ミュージカルの中で言いたいことを主張するため、説教くさくなくなかった点もさすがの一言。
市郎がこれからどのように令和の問題点を浮き彫りにして、生きやすい社会を築くためのヒントを示していくのか期待したい。
<文/望月悠木>
【望月悠木】
フリーライター。主に政治経済、社会問題に関する記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている。Twitter:@mochizukiyuuki