◆このドラマの大きな救いは、ふたりの「息子への愛」

 昂太は愛人を作り、陽子の財産を使い込んでしまった「クズ男」ではあるが(そして吉沢悠のその場しのぎが延々と続くクズっぷり演技は見事だった)、唯一の救いは息子への愛情だけは本物だったこと。それは陽子も同じで、ふたりがどんなに諍(いさか)いをしようと相手を陥れようと、ふたりとも息子への愛だけは忘れなかったのが、このドラマの大きな救いとなっている。

 離婚は陽子の思い通りに進んだ。陽子への暴力で警察に連行された昂太だが、陽子側は離婚の条件をすべてのめば、刑事罰は必要ないとしたのだ。

 昂太は根は「いいヤツ」だったのだろう。陽子を愛し、陽子から愛されているうちは。だが母親に甘えて育った彼は、息子を育てながら少しずつ「大人」になっていったのかもしれない。そして陽子の「完璧さ」に気づいてしまった。陽子を母親代わりにしておけば、あの平穏は保てた。だが彼が少し大人になったばかりに、陽子が疎ましくなっていった。そこへ現れたのが、若い理央(優希美青)だった。

 キラキラした若い女性に「映画監督」として尊敬の目で見つめられ、頼られているうちに昂太の中の「男」が目覚めたのではないだろうか。それでも陽子への愛情も消えてはいなかった。だからその場しのぎで嘘を重ねた。見えないところで陽子のお金を勝手に使いながら、それでも陽子を大事にしている「つもり」だった。確信犯的というよりは、なんとかその場をしのぎ、問題を先送りにする優柔不断な性格だったのだ。

◆夫婦って何だろう、何が正解だったのだろう

 最後のシーンは印象的だった。海辺のテラスで向き合ってのんびり過ごしている陽子と凪。凪はゲームに夢中だ。ふと見るとショッピングセンターから理央が生活用品を持って出てくる。理央は陽子に気づき、目線を落として会釈する。父親にも見放されたせいか、今までの好戦的な理央ではなかった。お腹はかなり目立つ。昂太が小走りにやってきて理央の荷物を持った。

 陽子は凪に「そのゲーム、教えて」と横に座らせる。この町を理央とともに出ていく昂太に凪の顔を見せてやりたかったのだ。凪も実は父が見ていることは察しているが、顔は上げない。じっと凪を見つめる昂太。このときの吉沢悠の表情がなんともいえず胸を衝く。そして彼は思いを断ち切るように、理央が乗っている車の運転席へと体を滑らせていく。

 夫婦って何だろう、何が正解だったのだろう……と陽子は考える。そこへたまたま誰かが倒れたと騒ぎが起こる。「医者です」と走っていく陽子。そんな母親を、凪はどんな思いで見つめていたのか。