さて、花山天皇の退位劇について、今回はお話しようと思います。ドラマでは、藤原兼家(段田安則さん)率いる右大臣家が結託。花山天皇を出家させる大役を任せられた藤原道兼(玉置玲央さん)が、父・兼家が強運とされている時間帯のうちにすべてを終わらせようと必死なのに対し、花山天皇があまりに怪訝な表情を浮かべており、すこし笑ってしまいました。

 この時、花山天皇はまだ数え年19歳の若さで、17歳の時に即位してから、わずか2年ほどしか経っていませんでした。それに平安時代の考え方では、出家して髪を下ろすことは「生きながらにして死ぬこと」にほかならず、そんな若さで……と思うのが人情でしょう。

 史実の花山天皇もたしかにピュアな方ではあったのでしょうが、純粋でも野生の猛獣のような方でした。即位式の時にも、儀式用の特殊な宝冠を「頭が暑い」といって脱ぎ捨ててしまったそうで、そのように記した藤原実資の『小右記』の内容が盛られて、「花山院、御即位の日に(略)馬内侍を犯さしめ給ふ」――即位式が始まる前に女官とセックスしていたみたい(だから頭がムレて暑かった)という「噂」が、「本当の話」として平安時代後期の説話集『江談抄』には登場しているのですね。

 この女官とセックス云々という部分は、おもに出家後の花山法皇、いわゆる花山院になってから世間に明らかになった数々のスキャンダルゆえの「創作」だとは思います。花山院は制約の多い天皇の身分から、出家によって開放され、自由奔放に振る舞えるようになってしまったのでした。藤原兼家の陰謀は、「セックスの怪物」を世に解き放ってしまう行為だったといえるでしょう。