◆妙な説得力がある恐怖の演技

『地獄の警備員』DVD・HDリマスター版(オデッサ・エンタテインメント)
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 では、若かりし頃の松重はどうだっただろう。

 例えば、松重出演作で筆者が偏愛しているのが、黒沢清監督による『地獄の警備員』(1992年)。暴力とホラーの映画マスター黒沢節炸裂の同作で、松重が初の映画オーディションで勝ち取り演じた恐怖の役柄とは。

 舞台はある商社オフィス。夜な夜な警備を担当する富士丸(松重豊)が、廊下を歩いているだけでほんとうに怖い。元力士で実はとんでもない殺人マシーンなのだ(設定からしてヤバい)。無口な富士丸が社員たちをどんどん殺戮していく地獄絵図がひたらす描かれる。

 超人的な怪力を備えた役柄に現実味は感じられないのだが、でも松重が演じると妙な説得力がある。当時の松重を見てイケメンだとは思わないのに、この演技は最高にイカしてるんだよなぁと強く思ったものだ。