ベキやノコルは乃木を心から信頼していないようだが、その態度は正しいかもしれない。第7話ラストで乃木が撃ち、即死とされた別班員4人だが、死亡が確認されたシーンはなく、野崎ら日本の公安とバルカ警察によって棺桶の状態で飛行機に運ばれただけだ。第7話で乃木が野崎に送っていた“メッセージ”が共闘を意味しているのであれば、空港のシーンは、テントの人間に見られていることを意識したうえで死亡をあえて装ったと考えられる。実際、公式YouTubeチャンネルで7月26日に公開された「『VIVANT』キャスト最新ビジュアル公開!遂に、本当の冒険物語が幕を開ける」という動画では、撃たれた別班員のひとり・熊谷一輝を演じる西山潤の紹介場面が、熊谷が患者衣を着用して点滴をしながら歩いているシーンだった。これは今まで登場していないシーンであることから、熊谷が生存しているのはほぼ間違いなく、ということは乃木に撃たれた別班員4人は生存している可能性が高い。つまり、乃木が他の別班員を銃撃して寝返るという行動自体が作戦の一環だとみられるのだ。そもそも別班指令の櫻井里美(キムラ緑子)は第7話、作戦行動前の別班員6名に向かって「今回の任務により、なぜテントが主義主張のないテロを繰り返すのか、日本の何を狙っているのか、世界で初めて私たちが知ることになります」と宣言していた。ただテントのメンバーと接触を図るだけでここまでの成果を得られることを期待するのは不自然で、リーダーの実の息子である乃木をスパイとして潜入させる計画だからこその発言だったのではないだろうか。
また、テントの1年間の収支報告のデータを見る際、乃木が監視カメラの位置を確認するシーンもあった。別班にかくまわれている天才ハッカ―の太田梨歩(飯沼愛)がハッキングし、乃木は防犯カメラを通して別班に情報提供しているのではないだろうか。乃木はどうやってアリを味方につけたか問われると「家族を殺しました」と言い放ち、ベキたちに乃木がアリを脅迫した映像を確認させたが、この映像はクラウド上にあると説明されていた。このクラウド上の映像にベキたちがアクセスすると、太田がテントのサーバをハッキングできる……という手はずだったとしたら。実際には乃木はアリの家族を殺したかのように見せただけで全員無事であり、ベキが確認した映像にも救出される場面まで残っていたことを考えると、あえてアリの家族を殺したとインパクトの強い言葉を言うことで、クラウド上の映像にアクセスさせるよう誘導したのではないか。ベキがテントの仲間を家族のように扱っていることを知っていたからこそ、「家族を殺しました」と言う言葉が効果的だったのかもしれない。
乃木の別人格と思しき「F」が第8話でまったく登場しなかったのも気になる。第6話で乃木がベキに会いたいとFに明かし、「本当の息子だと分かれば、愛情を注いでくれるかもしれない」と期待を込めると、Fは「ベキに会うのはいい。だが、その時は親父を殺す時だ」と警告していた。終始見張られているため出てこなかった可能性もあるが、Fが乃木を助ける必要も、乃木に忠告する必要もない状況――すなわち乃木が作戦の実行中であるからとも見ることができるだろう。