中盤から登場した阿部寛演じる公安の野崎。乃木に「お前は世界中を巻き込む大きな渦に入り込んだ。日本警察はお前を責任を持って保護してやる。お前のためじゃない。日本国のためだ」と伝える。今のところ野崎は味方だと考えたほうが自然だが、野崎がなぜ中央アジアに渡ってまでテロ組織の幹部をマークしていたかはまだ不明で、野崎の狙いは乃木の保護だけではないだろう。また、ドラムは野崎に対し忠実に見えるが、有能すぎて存在感が不気味だ。「敵か味方か、味方か敵か」がキャッチコピーの本作、二重スパイや2つの顔を持つ人物が複数登場し、お互いに騙し合う展開も考えられる。野崎も公安の職員以外の身分がありそうだ。
そもそも主人公の乃木でさえ、つかみどころのない部分が多い。冴えない商社マンに見えるが、マルチリンガルで、バルカのことに詳しいだけでなく、バルカでは少数派のイスラム教の礼儀作法まで知っている。なのに「同期の昇進レースではビリッけつ」だという。また、乃木に困難が降りかかるたびに“もう1人の乃木”が登場し、有用なアドバイスをもらってなんとか乗り越える。恐らく、二重人格か、想像上の友人――イマジナリーフレンドの類だと考えられる。劇中、たびたび幼い頃の回想らしきシーンも流れ、波瀾万丈の過去を負っているらしいこともうかがえる。CIAの友人・サムが「高校の時からの親友」というところからして乃木の生い立ちは謎だ。
他にも気になる場面は多い。ホテルの部屋でもう1人の乃木と対峙する場面では、2人の乃木が同じタイミングで壁のほうを見るという不自然なシーンがあった。また、GFL社の社長・アリ(山中崇)に誤送金の件を話しに行った際、乃木が資料を落としてアリのデスクの下をゴソゴソするという場面があったが、一瞬アリの私用携帯の充電が途切れる瞬間があった。しかもその直後、GFL社の外で、乃木がアリの私用携帯によく似たスマートフォンを何かの端末につないでいるような場面があり、さらに乃木はアリが私用携帯を持つ右手を強引に引っ張って、アリが落とした私用携帯を乃木が拾う場面もあった。もし乃木の「冴えない」部分が表向きの演技に過ぎないとしたら、ホテルの場面では野崎が盗聴していたことに実は気づいていた、GFL社の場面ではアリのスマートフォンに何かを仕掛けた……といった可能性もありそうだ。もし乃木がそこまで有能ならば、野崎も疑っていた「CIAの友人」の実在すら怪しく思えてくる。