富裕層=高所得と思いがちだが、「資産はあるが所得は低い」というお金持ちもいれば、「所得は高いが資産はない」というお金持ちもいる。実際、米国の「アッパーミドル層」の多くが金銭的な蓄えを持たずなく、老後のための貯蓄もしていないという。
誤ったイメージが定着しているのは、「高所得層」「資産家」「富裕層」「お金持ち」の区別がついていないからだろう。本当の富裕層は10人に1人しかいないそうだ。
「資産家」と「高所得者」の違い
「高所得層」「資産家」「富裕層」−−全てお金持ちに変わりないが、資産構成には大きな違いがある。
「資産はあるが低所得」のカテゴリーに該当する例として、一等地に家を所有している年金生活者が挙げられる。自分の住んでいる家以外の不動産を所有しておらず、株式などほかに収入源がない場合、例え資産価値3億円の家に住んでいても収入は年金だけである。
「あれだけの豪邸に住んでいるのに、なぜお金がないのか?」と周囲が首をかしげるお金持ちは、このパターンかもしれない。資産があっても今すぐ使える現金を持っていなければ、高所得者とはいえないため、資産家という表現が適切だ。
一方、「高所得だが資産はない」というお金持ちは、年収5000万円でも同じぐらい、あるいはそれ以上に散財する生活を送っている人々だ。
「あれだけ稼いでいるのに、なぜお金がないのか?」という高所得者は、恐らくこのパターンだ。贅沢な暮らしに使えるお金はあっても、資産がなければ資産家とはいえない。
「富裕層」の条件
それでは両者を「富裕層」と呼ぶのは正解なのだろうか?そもそも「富裕層」とは、正確にはどんなお金持ちを指すのか?
Investopediaは富裕層(HNWI)を「純資産額が高い個人・世帯」、超富裕層(UHNWI)を「少なくとも3000万ドルの投資可能な資産を有する個人・世帯」と定義している。仏国際金融コンサルティング会社キャップジェミニなどは、HNWIの定義を100万ドル以上としている。ここでいう資産とは、現金化しやすい短期金融資産をさし、居住している不動産は除外される。
多くの銀行がHNWIやUHNWI専用の投資口座を提供しているが、口座開設には一定額の流動資産を保有している必要がある。HNWIやUHNWIは、通常の投資信託ではなく、こうした特別投資口座の対象となる点が、単なるお金持ちや高所得層と異なる。
投資口座の対象基準 は銀行によって違う。バンク・オブ・アメリカは2万ドル以上の預金がある顧客に投資口座を提供しているが、5万~10万ドルの預金がある顧客は様々な富裕層専用の特典を受けられる。シティーグループは毎月平均20万ドル以上を投資口座に預けている顧客に、同様の特典を提供している。
つまり、富裕層になるためには、すぐに現金化できる資産を常に保有している必要があるということだ。一等地に住んでいる=不動産は流動資産ではないため、いくら評価価格が高くても、一定の投資可能な現金をもっていなければ富裕層ではない。高所得層もお金持ちには違いないが、投資できる余裕がなければ富裕層には該当しない。
富裕層は10人に1人もいない?
本当の富裕層は10人に1人もいない。キャップジェミニの「ワールド・ウェルス・レポート2017」 によると、2016年のHNWI人口は1650万人で、全人口に対する割合は前年から2.6ポイント増の7.5 %。総資産は8.2%増の63.5兆ドルで、2025年には100兆ドルを超える見込みだ。
著名経済学者アリソン・シュレイガー氏は、米国のアッパーミドル層の多くがいざというときの金銭的な蓄えがなく、老後のための貯蓄もしていない点に懸念を示している。ここでいうアッパーミドル層とは収入が5~10万ドルの世帯を指す。
シュレイガー氏は連邦準備制度理事会の消費者金融データに基づき、「平均的なアッパーミドル層世帯の非年金金融資産は、わずか1.2万ドルしかないと」という衝撃的な分析結果を報告している。派手な生活を好む傾向が強く、負債額が大きいことなどが原因ではないかと推測している(QUARTZ2015年11月3日付記事)。
負債で貯蓄できない、あるいは首が回らないアッパーミドル層を、「お金持ち」と呼んでいいものかどうか、判断に困るところだ。このように、様々な「お金持ち」が世の中にいるという事実が興味深い。
文・アレン・琴子(英国在住フリーランスライター)/ZUU online
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