芸人のネタは単独ライブでもなければ、月に1本つくるのが普通。この1本という数字だけを見るとかなり少なく感じる人もいるだろう。元芸人としてこれだけは言う。決して簡単な作業ではない。テンプレートになるようなものも存在せず、自分たちに合った形を模索し続けながら、誰かに似ていないオリジナルネタを作り、さらに自分たちが過去に作ったネタとも若干テイストが違う新しいものを考えなければならない。そしてネタ尺の時間調整をしつつ、自己満足にならないように気をつけながらその時出来る最高に面白いと思えるものを作っていく。たった1本なのだが、それを毎月やるのは結構ハードな作業なのだ。
なので出来ればお客さんにはミュージシャンのように「知ってる歌を聞きたい」つまり「知ってるネタを見たい」という感覚になっていただきたいものだが、そんなことになったら間違いなく笑いの量は減る。「見たことある~」「待ってました~」なんて恥ずかしいったらありゃしない。
さらに一つの作品が生み出す「儲け」の差もハンパではない。歌と違ってネタに〇〇印税は発生しない。カラオケのようにネタを完璧に真似したい、自分も同じネタを披露してみたいという人が圧倒的に少ないからだ。ネタはやるものではなく見るもの。さらにやりたいとしてもただやるだけではダメで、誰かに見てもらって初めてネタになる。なので一人カラオケは成立するが一人ネタというのは成立しないのだ。すべてを踏まえて明らかに芸人の方が自身が作った作品に対しての恩恵が少ない。
全芸人が一度は口にしただろう「ミュージシャンを選んでおけば良かった」と。ただ僕がもし生まれ変わったとしてもミュージシャンではなく、また芸人を選んでしまう気がする。それは芸人にしか味わえない喜びや楽しさがあるのは間違いないからだ。今でも機会があるなら舞台に立って漫才をしたいと思う。まあ思っているだけなんだけど。