遺言書を残すには「遺留分」に注意

ケース1の場合、B子さんにとっては「生活に困らないようできるだけ多く遺産をもらえるよう、遺言書を残しておいてもらう」「生前に贈与してもらう」ことが、Aさんに何かがあったときに紛争を防ぎ、生活保障を図るための方法となります。

ただし、注意しておきたいのは前妻の子どもの「遺留分」を侵害しないようにすることです。

「遺留分」とは、残された相続人の生活保障のために、法律が定めた遺産の一定割合について、その相続人に持分を確保させなければならないとするものです。亡くなった人のきょうだいに遺留分はありませんが、亡くなった人の子どもと親(生存している場合)には遺留分があります。

例えば、Aさんが遺産を今の妻とその間に生まれた子どもに全部相続させるという内容の遺言書を作ったとしたら、それは前妻の子どもの遺留分を全く無視した内容となってしまいます。せっかく遺言書を作っても、あとで前妻の子どもたちから、遺留分相当の財産の引き渡しを求められる可能性があり、遺言書があったとしても遺産分割の調整をしなければなりません。

ケース1の場合、前妻の子どもには1/12ずつ遺留分があることになります。この遺留分に配慮しつつ、可能な限りB子さんとその子どもに遺産を残すという内容で遺言書を残してもらうのがベストです。

なお、家庭裁判所で許可の手続きを取れば、前妻の子どもたちにこの「遺留分」をあらかじめ放棄してもらうこともできます。事前に放棄する許可が認められるといっても、実際のところはハードルが高く、また、特に前妻の子どもとの間に行き来がなかった場合には、協力を求めたところで応じてくれる可能性は低いでしょう。

「遺留分」の金額を計算するにあたっては、相続人の人数(特に子どもの数)が関係するため、相続人の範囲をきちんと確認しておく必要があります。

再婚した夫に、前妻との間に生まれた子どもがいる場合、民法上、基本的にその子どもは相続人になります。本来なら、再婚前の家庭については再婚相手(現在の妻)に話しておくべきことでしょう。ですが、言いにくくて隠していた、あるいは、離婚後に子どもが生まれた事実を夫が知らずにいたというケースもあり得ます。

相続が発生したら、まずは、夫の出生から亡くなるまでの戸籍謄本を取り寄せて、相続範囲を確認することが重要です。仮に、夫と前妻の間にできた子が生まれたのは離婚後だという場合でも、離婚の300日以内に生まれたのであれば、前夫の子どもと推定される規定が民法にはあります。相続人の数が増えるとその分相続分も減少しますので、注意しましょう。

相続が発生すると、子どもは第一順位の相続人になり、前妻の子・後妻の子にかかわらず、同じ法定相続分で相続することになります。かつて、認知された子ども(「非嫡出子」とも言います)の法定相続分は嫡出子の1/2とされていた時代もありましたが、現在では法改正され、嫡出・非嫡出問わず同じ法定相続分で相続できるようになりました。

ちなみに現在、国会で相続分野に関する民法改正案が提出されており、それには配偶者の「居住権」の確保に関するものが含まれています。残された配偶者と他の相続人が対立して、配偶者が住むところに困ることがないようにするための規定です。

また、自分で遺言書を作る「自筆証書遺言」についても、より利用しやすくするための要件緩和や、保管がより確実になるような制度の創設が予定されています。

これらの民法改正案が成立すると、ケース1のB子さん母子がより生活が困らなくなるような制度へと変わることになります。今後の法改正の動きにも注視したいですね。