出場27回、優勝6回のバカリズムはもちろん、麒麟・川島明も『IPPON』の優勝が飛躍のきっかけだったと明かしていたことがある。有吉弘行やおぎやはぎ・小木博明、ネプチューン・堀内健など「大喜利が意外に強い」ということで再評価を受けた芸人も数知れないし、そもそも芸人の評価軸やキャラクター付けに「大喜利が強い/そうでもない」という要素を生んだのも『IPPON』だったはずだ。松本が発明したのは単に「フリップ大喜利」という手法ではなく、お笑いにおける「大喜利力」という価値観だったのだ。今回の松本のいない『IPPON』を、そんなことを考えながら見た。

 それとは別に、前回の第28回『IPPONグランプリ』を見返していて、なんだこの話は、と思った一幕がある。オープニング、松本がおもむろに始めたエピソードトークだ。

「靴下がなくなることがあるじゃないですか、片方が。なくなったんですよ、こないだ。だいたいなくなっても、いつかは出てくるんですけど、どうやら今回ホントに出てこなくて。昔は、出てこなかった靴下に対して腹立ってたんですけど、ふっと僕思ったんですけど、考えたら、残ってる靴下のほうがムカついてきて。いやいやおまえも一緒にいなくなってくれたら、俺は靴下がなくなったことも気づかんで済んだかもしれないわけじゃないですか。結局、残ってるこいつが悪いんだよな、残ってるおまえのせいで存在がなくなったことの存在を強調させてるわけですよ」

 もちろん、単なる偶然と松本の気まぐれの産物である。それにしてもダウンタウンすぎないか、この話。

(文=新越谷ノリヲ)