◆小原さんは一緒にエゾモモンガを撮る前に、天国に行ってしまった

滑空するエゾモモンガ
滑空するエゾモモンガ
 その後、2022年1月、小原さんの撮影仲間の方々が、エゾモモンガのいる森を案内してくれました。むっちゃくちゃ寒かったです! 厳冬期、夜明け前の森はマイナス10℃前後。「こんなところでずっと撮影していたんだから、小原さん、たいへんだったろうなぁ」と思いました。だけど、朝焼けの中、エゾモモンガたちが巣穴から顔を出すと、「かわいい~!写真撮る!!」となり、やはり師匠と弟子は似るものだなと思いました。エゾモモンガたちが滑空を始めると、私も望遠レンズを向けます。なんとか、宙を舞うエゾモモンガの姿を撮ることができました。

エゾモモンガのアイラインはハート型
エゾモモンガのアイラインはハート型
 徹底的に「かわいい」動物を撮り続けた小原さんには、「かわいいは一番強い」という信念がありました。実は動物写真家になる前、小原さんは報道カメラマンでした。紛争地の難民キャンプで飢えた子どもたちを撮っても、日本の雑誌はラーメン特集の方を優先したことを、小原さんはすごく残念がっていました。

 そんなある時、電車の中で、女の人が雑誌に掲載された小原さん撮影のアザラシの赤ちゃんの写真をじーっと眺め、大切そうにしまうのを見たそうです。その時、小原さんは「かわいいは伝わる」と思ったとのことでした。小原さんは、かわいいアザラシの赤ちゃんの写真を見せながら、講演等で年々深刻化する地球温暖化の影響を訴えてきました。「かわいい」と思うから、動物や自然を守りたいという気持ちが湧いてくる―私もその通りだと思います。だから、これからも、小原さんの写真を多くの人々に見てもらいたいし、私も「かわいい」写真を沢山撮っていきたいと思います。

【小原玲(おはら・れい)】プロフィール

1961年、東京都生まれ。茨城大学人文学部卒。写真週刊誌『フライデー』専属カメラマンを経て、フリーランスの報道写真家として国内外で活動。1989年の中国・天安門事件の写真は米グラフ誌『ライフ』に掲載され、「ザ・ベスト・オブ・ライフ」に選ばれた。1990年、アザラシの赤ちゃんをカナダで撮影したことを契機に動物写真家に転身。以後、マナティやホタル、シマエナガなどを撮影。テレビや雑誌、講演会のほか、YouTubeの「アザラシの赤ちゃんch」が人気を博すなど、多方面で活躍した。写真集に『シマエナガちゃん』『もっとシマエナガちゃん』『アザラシの赤ちゃん』(いずれも講談社ビーシー/講談社)など。2021年11月17日に死去。享年60歳。2022年11月、小原さんが残した写真をもとに、作家の堀田あけみさんら小原さんのご家族と講談社ビーシーの編集者によって、写真集『森のちいさな天使 エゾモモちゃん』(講談社ビーシー)が出版された。

<文・写真/藍沙(あいしゃ)>

【藍沙】

藍沙(あいしゃ):2006年、東京都生まれ。現在16歳、高校2年生の写真家。動物写真家の小原玲さんに指導を受け、小学5年生から野鳥を撮り始める。中学3年生の時、富士フイルムの若手応援企画「写真家たちの新しい物語」の対象に選ばれ、2020年、伝統ある富士フイルムフォトサロン東京で歴代最年少で個展を行う。同年、全日本写真連盟主催の「日本の自然」コンテストで「朝日新聞社賞」を受賞。NHKBSプレミアム『ワイルドライフ』(2022年4月4日ほか複数回放送)など、テレビ番組にも出演。現在、『毎日小学生新聞』(毎日新聞社)にて、地球環境と生きものたちをテーマに写真とエッセーを連載中。愛機は富士フイルムのミラーレス一眼カメラX-T4。愛用レンズはXF100-400mm F4.5-5.6 R LM OIS WR。