◆賛否どちらにせよ“松本人志がカリスマ的なパイオニア”は共通前提

 大事な点は、実際に『大日本人』が菊地氏の見立て通りの傑作であるかどうかではありません。松本人志が、このように論じさせる力を持っていることこそが重要なのです。

 杉田氏、菊地氏、いずれも松本人志がカリスマ的なパイオニアであるという前提を共有しているように見えます。

 そのような世間のムードを作ったのが、他ならぬ松本人志なのです。そしてそれをおよそ30年にわたり、維持している。

◆いまだ松本人志が“持ってる”

 そう考えると、中田敦彦はいまだ松本人志が“持ってる”ことを証明したとも言えるのではないでしょうか。

 かつての煙に巻くようなアート性が、いまも目に見えぬ影響力となって松本を支えている。

 ビートたけしやタモリなど、お笑い芸人が真剣に論じられるのは日本特有の現象なのかもしれません。しかしながら、語られ方において松本は異質である。

 玉砕(ぎょくさい)覚悟の中田敦彦は、そのことも改めて教えてくれたように思います。

<文/石黒隆之>

【石黒隆之】

音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。いつかストリートピアノで「お富さん」(春日八郎)を弾きたい。Twitter: @TakayukiIshigu4