◆“知らずに「やってしまっていた」天才による支配”論

 一方、杉田氏の認識を共有しつつ、それでも奇跡的に松本の天才性が発揮された例として映画『大日本人』を絶賛したのが、ジャズミュージシャンの菊地成孔氏でした。菊地氏も松本に映画史の素養がないことを踏まえたうえで、こう分析します。

 <おもしろそうなこと、自分が表現したい、漠然とした不気味なムード、を現実化する過程で、知らずに「やってしまっていた」のである。僕は関東人なので、次の言葉を正しく使っているか、100%の自信がないのだが、これは天才的な、エゲツないイチビリの行動原理である。ちょっと引っ掻くつもりが、深いタブーに触れてしまう。いちびられた相手の反応は、キレるか、フテるか、黙るか、拍手喝采するか、いずれにせよ、いちびり側に決定されてしまう。天才による支配である。>(『ユングのサウンドトラック 菊地成孔の映画と映画音楽の本』著・菊地成孔 イースト・プレス刊 pp.7-8)

「大日本人」よしもとアール・アンド・シー
「大日本人」よしもとアール・アンド・シー