■サルゴリラ「高校野球」
カゲヤマが人間界の優勝であるからして、この日のサルゴリラ、特に児玉にはちょっと何かが舞い降りていた感がある。たぶん魚だと思う。
2本目のネタは、決して驚くような仕掛けがあるわけでもないし、凝った構造があるわけでもないし、美しい展開があるわけでもない。単純なワードの積み重ね一点突破で、台本だけ読んだら「面白いけど、まあ」くらいの感じだと思う。というか準決の配信で見たときの印象も、「ああーバカバカしい、面白いけど」だけだった。
児玉があの膨大なセリフ量を、テンションを乗せたまま一切噛むことなく、走ることもなく、あの監督を通して面白いことを言う人ではなく、そういう監督として演じきったことが勝因といえば勝因だろうけれど、じゃあなんでそんな演技ができたのかはちょっとわからない。キャリアとか経験とか稽古量とか、そういうもので身につく技術ではなく、本当に何かこの日、見ている人が全員、児玉を愛してしまうオーラのような、スター性のような、そういうものが現出していたように思う。ネタの後半で「昔、お世話になった魚がいてな」というところでは、客席からちょっとお笑いでは聞いたことのない「ひょぅ~」みたいな悲鳴まで聞こえてきた。誰もが引き込まれ、奪われていた。ミラクルとか、マジックとか、そうとしか表現できないサルゴリラだった。赤羽が高校生役ってちょっと無理あるだろと思ってたけど、「変な可愛い世界」が成立してしまっていたので、まったく気にならなかった。
『キングオブコント』が、そういう奇跡の類を起こさないと優勝できない大会になってしまったのだとしたら、これは大変なことだと思う。
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なるべく、この日起こったことだけを書こうと思った。彼らが「この5分」に賭けていたのだから、「その5分」の話だけをしたいと思った。これから、さまざまなメディアでさまざまな人生ドラマが語られるに違いない。感傷に浸るのは、そのときでいい。
最後にひとつ、言っておきたいことがある。そこにある長大なドラマは、いったん置いておく。
ナレーション、今日もカッコよかったよ、チャンプ。
(文=新越谷ノリヲ)