この運営サイドの説明コメントを読み、僕は正直いたたまれない気持ちになった。「りの」さんの投稿を目にした時点でこれはネタだとわかるものだったからだ。もちろん大半のユーザーはこれをネタだと理解していただろう。もしこれがリアルなものであるならば、運営とのやり取りを公表するはずがない。さらにやり取りの文章からしてもとても丁寧で、ルールがわかりやすく提示されている。これは明らかに第三者の目を意識したものだとわかる。すべてを踏まえてネタだとわかりそうなものなのだが、一部のユーザーはこのフィクションを現実だと受け止めて批判をしてしまったのだ。

 僕が子供の頃、テレビ番組、とくにバラエティ番組から発信される情報はほとんどがフィクションで、芸能界はファンタジーな世界だと捉えていた。そうでなければあんなに面白いことが毎日起こるはずが無い。出演している芸能人も、番組の世界観も、リアルに見えるがフィクションで作られており、芸能人のプライベートが見えないのが当たり前だった。

 なので番組によって素の部分が垣間見えたりすると、めちゃくちゃテンションが上がり、お得な気分になったのだ。しかしリアルを売りにするYouTubeの登場により、テレビなどの仮想空間と現実の境目が曖昧となり、フィクションがフィクションとして受け止められなくなってしまう人が増えたのだ。さらに今はどんな目的があろうと、どれだけ面白かろうと「誰も傷つけない」ことが最優先とされており、本来ならしなくていいようなネタばらしをしてでも「本当は誰も傷ついていない」ということを伝えなければならなくなった。

 もやは視聴者が求めるアイドルや芸人、芸能人像はファンタジー世界の住人ではなくなってしまったのだ。これは僕の偏見だが、芸能人全員が素で番組に出演したら、何も面白くなくなるはずだ。芸人は頑張らないと面白くないし、アイドルもキャラクターに入らなければ我々一般人と変わらない。だからこそ長年時間をかけて先人たちが指針となる芸人像、アイドル像を作り上げ、それを追うことによりファンから愛される芸能人になれるのだ。「どうせリアルじゃないだろうけど、リアルだったらいいなぁ」と楽しむのがエンタメであって「リアルのみしか受け付けない」という人がエンタメを楽しめるわけがないのだ。