まずは18年ぶりにリーグ優勝した阪神の岡田彰布監督(65)のお話から。

 優勝が決まった日の夜、大学時代の友人から電話があった。彼は兵庫県出身で熱狂的な阪神ファンである。

 電話から飲み屋の喧騒が聞こえてくる。「もとき……」とヘベレケになった声が聞こえる。いきなり「六甲おろし」を歌い始める。

 一応「おめでとうな!」というと「お前、本心からいうてないだろう」ときた。

 今は違うが、私は昔、親子二代の由緒正しい巨人ファンであった。「フライデー」「週刊現代」編集部には阪神ファンが多くいた。阪神の優勝可能性ありとなると、みんなソワソワして仕事が手につかなくなる。

 私が熱狂的な巨人ファンだということを知っているから、私の前では阪神のハの字もださない。だが、裏では、阪神が優勝したら臨時増刊号を出そうと企画会議を開いていたこともあった。

 恐る恐る私に、「あの~もし阪神が優勝したら、その~特別号を出してはどうかと」と聞きに来る奴もいた。私は「万が一、優勝したらな」と一言。

 今でも覚えているが、編集部員の結婚披露宴が開かれている最中に、阪神が優勝するかどうかの天王山が行われていた。

 気が気でない連中が外に出ては、戻ってきて誰かに耳打ちする。新郎新婦そっちのけであった。

 だがめでたく、阪神はその試合に負け、優勝を取り逃がしたのである。披露宴の二次会は、さながら阪神の残念会になり、相当荒れたと聞いた。

 だいぶ前に巨人ファンを引退し、阪神が勝とうが負けようがどっちでもいい私は、その友人にいった。

「阪神が日本一になったら一杯飲もう」

 ガチャンと電話が切れた。私は電話の前で、「六甲おろし」を歌った。

 さて、岡田監督の話だ。シーズン初め、ほとんどの評論家たちが「阪神最下位」と予想していたと思う。ろくな補強もせず、現有勢力では到底優勝争いなどできはしない。それが大方の見方だった。

 岡田マジックといっていいだろう。そのマジックの一つが、「優勝」といわずに、「アレ」といって、選手にプレッシャーを与えないというマジックがあった。
優勝の翌日のほとんどのスポーツ紙には「アレ」という文字が躍った。岡田の細君・陽子というのは帰国子女だそうだ。

 単なるアレを、英語を当てはめ、何やら意味のあるものにしたのは彼女だそうだ。

「本来ならば先に意味を考えて決めるのでしょうが、今回は主人の口癖から『A・R・E』が決まっていたので、普段から主人が考えていることをもとに提案させていただきました」(陽子)

 今時、亭主に、「させていただきました」なんて言葉を使うカミさんなどほとんどいないぞ! 

 Aは「Aim(目標)」、Rは「今後も選手とOBとの交流が続き、高い技術が脈々と引き継がれていくことへの願いも込めて」(同)「Respect(尊敬)」、Eは、「Empower(パワーアップ)」としたそうだ。

 この内助の功が亭主を悲願の日本一を現実のものにするかもしれない。そうなれば岡田監督はカミさんに頭が上がらなくなるだろうが、それが家庭円満の秘訣なのだ。