各企業が「人権侵害は許さない」という立場から厳しい姿勢を示しているが、勢い余ってか物議を醸すような意見を表明してしまうケースが生まれており、化粧品大手のコーセーは謝罪する事態となった。同社は15日、公式サイトで発表した「ジャニーズ事務所に対する当社の対応について」と題する文書の中で、所属タレントやスタッフの他社への移籍や別組織の設立などで新たな活躍の場をつくるべきと提言した。だが、これに対して「スポンサーという優位な立場を利用した圧力ではないか」との指摘があり、同社は19日に「誤解を招く表現だったことにより、不愉快な思いをされた皆さまには、心よりお詫びを申し上げます」と謝罪。タレント・スタッフと事務所の契約に介入するつもりはなかったと釈明したうえで、文書から移籍などに関する文言を削除した。

 経団連の十倉会長が発言したように、「人権侵害は断じて許さないという企業の姿勢を内外に示すことは重要」なのは間違いないが、やり方によっては罪のないタレントたちを苦しめることにもなりかねない。また、ネスレ日本の元社長である高岡浩三氏が「20年以上前からジャニー氏の噂は知っていた。だから、ガバナンスとコンプライアンス規定の観点からジャニーズのタレントをCMや販促に一度も起用しなかった」と自身のSNSで明かしたことをきっかけに、「CM撤退したスポンサー企業は『噂を知っていたのにジャニーズを起用していた』のではないか」という疑問の声も高まっている。

 20日付の英BBCの報道によると、世界的企業であるトヨタ自動車も「今後はジャニーズ事務所のタレントと契約する予定はない」とコメントしているといい、スポンサーの「CM撤退ドミノ」は止まりそうにない。そんな中で、経団連会長の「タレントの活躍の場を奪うべきではない」という言葉はジャニーズタレントたちにとって大きな救いになるかもしれない。

 ただ、経団連の十倉会長はジャニーズの社名変更について「意見を差し控えるが、タレントの活躍の場を失わないようにしようと考えると、おのずと答えは出るのではないか」と述べ、ジャニー氏の名前を冠した社名の変更は必須であることを示唆。これについては、ジャニーズ事務所も19日に発表した文書で、株式問題や社名変更などが議題となった取締役会で「今後の会社運営に関わる大きな方向性についてあらゆる角度から議論を行い、向かうべき方針を確認いたしました」とし、遠くないうちの社名変更をにおわせている。

 いずれにしても、雪崩を打つように「ジャニーズ排除」へと一方的に突き進む流れに、「待った」がかかったのはタレントたちのファンにとっても朗報。この問題については、被害者救済やジャニーズの組織改革と同時に、どうすれば罪のないタレントたちの活躍の場を奪わずに解決していけるのかを模索していく必要がありそうだ。