10年前「守るってなに?」と向井くんに問いかけた美和子だが、自分の正解と照らし合わせたかったわけではなく、彼女自身も答えを持ち合わせていなかった。唯一彼女の心に確固として存在していたのは、独身を憐れむ古い価値観の父親や世間に対して、結婚していなくても幸せになれることを証明したいという意志だけ。

 けれど、独身を謳歌する遠山のおばさんのような強さも、寂しさを忘れて没頭できるような趣味も美和子にはない。向井くんだけではなく、彼女もまた恋愛……というより、人生そのものに迷っている一人だったのだ。もしかしたら、向井くんの父親(光石研)の言葉「自分の人生の舵は自分が取らないと」を最も必要としているのは、頭デッカチな父親に縛られながら、自分とはかけ離れた遠山のおばさんの虚像を追いかける美和子なのではないだろうか。

 ねむようこ氏の原作漫画は現在も連載中だ。つまりドラマ版は、この何重にも入り組んだ物語を、原作より先に着地させねばならない。向井くんだけでなく、毒舌恋愛メンター・坂井戸さん(波瑠)やまみん(藤原さくら)、元気(岡山天音)といった令和の恋愛迷子たちを救う答えは得られるのだろうか。どのように幕を引くのかは見当もつかないけれど、このドラマは“対話”の必要性を繰り返し説いてきた。それはまみんと元気のようなパートナー間での“対話”や、自分自身との“対話”を指している。

 自分はなにを考えて、なにを求めているのか。それを言葉にすることの大切さを、向井くんも私たち視聴者も痛いほど味わってきた。生涯で一番好きだった美和子の呪縛を断ち切って、ようやく人生の舵を取り戻した向井くんならば、少なくとも、自分が納得する形の“幸せ”にいつか辿りつけるはずだ。