かつて恋愛ドラマの男性主人公といえば、古くは『101回目のプロポーズ』(フジテレビ系)から『結婚できない男』(同)、『モテキ』(テレビ東京系)など、極端に女性経験がなかったり、対人コミュニケーションそのものに欠陥があったりと、あからさまに“モテない”男性が多かった。彼女いない歴=年齢のアキバ系オタクが電車で出会った美女・エルメスと恋に落ちる『電車男』(フジテレビ系)のように、どこかさえない男性が誠実な人柄で高嶺の花を振り向かせる逆転サヨナラ満塁ホームランのような展開は、男性視点の恋愛ドラマにおいて定番のフォーマットである。
だが、向井くんはモテないわけではない。むしろ公式的には“いい男”とされており、性格や職業、顔面が赤楚衛二なことを踏まえて、彼のステータスをグラフ化したら、なかなか綺麗な五角形になると思う。合コンに行けばモテるだろうし、マッチングアプリなら人気会員になっているはず。しかし、そんな目立った欠点のない、むしろスペックが高いほうの向井くんでさえも結婚はほど遠く、自ら手を伸ばさないと恋愛にすら至らない。運命の出会いなんてそう簡単に降ってこない。『こっち向いてよ向井くん』はそんな令和の恋愛の世知辛さを反映した作品でもあるのだ。
個人的に最も刺さったエピソードは、向井くんへのザオラルLINE(しばらく連絡を取っていない人とキッカケを作るためだけにするLINE)とともに現れ、「忘れられない恋があって切ないわけじゃないんです。思い出す恋がなくて切ないんです」と名言を残して去っていった婚活女子のチカさん(藤間爽子)回だ。タスクのように婚活をこなしていた反動で、向井くんとの恋愛を純粋に楽しめない不器用なチカさん。ありのままの自分で向き合うのが怖くて、よそゆきの婚活モードで接していたようにも見えた。向井くんは面食らっていたけど、「子どもがほしいから結婚したい」「そのために一日でも早く結婚したい」というチカさんには、結婚願望のある30代女性のリアルが詰まっていたと思う。
三者三様の女性の価値観に触れた向井くんを待っていたのが、10年間忘れられなかった元カノ・美和子との対峙だ。同級生の計らいで再会した二人は、それから恋人時代のようなひとときを過ごしたものの、関係性の認識にズレが生じてしまう。