恋愛ドラマの主人公はどこか極端である。たとえば、仕事はできるのに驚くほど私生活がだらしなかったり、他人に対してトゲトゲしていたり、どうしようもないくらいに拗らせていたり。それまで全く恋愛経験がなかった人が、ある日運命の人に出会って、大恋愛を成し遂げたりもする。けれど、世の中そんなに極端な人ばかりだろうか。

 そんなことをぼんやりと考えていた矢先、彗星のごとく現れたドラマが『こっち向いてよ向井くん』(日本テレビ系)だった。Tシャツメーカー勤務の向井くん(赤楚英二)が、元カノ・美和子(生田絵梨花)の亡霊を断ち切り、10年ぶりに彼女を作ろうと立ち上がる。気がつけば同期には小学生になる子どもがいて、飲み会の予定も合わず、20代の妹も結婚した。そろそろ自分も……とスイッチを入れてはみたものの、久しぶりの恋愛に手こずる33歳一般男性の話だ。もしこれが「33歳一般女性向井さん」の話ならば、そこまで前のめりになっていなかったかもしれない。男性だって恋愛や結婚について悩む日もあるだろうに、彼らの物語はあまり語られてこなかった。『こっち向いてよ向井くん』は、これまでドラマの主人公にならなかったような人たちの恋愛模様を改めて可視化した作品になっている。

 しかし『こっち向いてよ向井くん』の斬新さは、ただ男性視点の恋愛ドラマというだけではない。主人公の向井くんが“非モテ”ではないことに新しさがあるのだ。