増額されるかもしれない金額は?

長期加入者特例が適用される場合、報酬比例部分に加えて定額部分が支給されることになるが、定額部分はどれほどの金額になるのだろうか。特別支給の老齢厚生年金の定額部分は以下の計算式によって計算される。

1,625円×生年月日に応じた料率(※1)×被保険者期間の月数(※2)
※1「生年月日に応じた料率」は1946年4月2日以降に生まれた人は1.000を用いる
※2「被保険者期間の月数」の上限は480月

先に説明した62歳から報酬比例部分の支給が開始される1955年11月生まれの男性の場合を当てはめて考える。この男性に長期加入者特例を適用すると、定額部分として年間でどれほどもらえるのだろうか。「被保険者期間の月数」は上限が決められており、44年(528月)の期間があっても上限の40年(480月)で計算する。以下の通り、年額78万円を受け取れることがわかる。

1,625円 × 1.000 × 480 = 78万円

62歳から特別支給の老齢厚生年金の報酬比例部分に加えて、定額部分を受け取ることができるのなら、65歳に到達するまでの3年間の間で234万円(78万円×3年間)も受給金額が増えたことになる。

なお、この年額78万円に加えて、条件を満たす場合には65歳未満の妻などに対する加給年金額が支給されることもある。もし、加給年金額も支給されるのであれば、長期加入者特例を適用することにより、定額部分と合わせて年額約100万円も支給額が増える。

65歳になると通常の老齢厚生年金の支給が開始されるので、長期加入者特例が適用されるのは、64歳までの間の数年間である。だが、かなりの金額が増える可能性があることを覚えておきたい。

どんな人が特例の対象となり得るか

長期加入者特例はどんな人が対象となり得るのか。厚生年金保険の加入期間が44年以上となるのは簡単なことではない。例えば、大学を卒業して22歳から会社員として勤めあげたとしても、44年経つと66歳になる。加入期間が44年以上となる前に、通常の老齢厚生年金の受給開始年齢の65歳に達してしまう。

可能性が高いのは、中学や高校を卒業して10代で会社勤めを始め、厚生年金保険に加入し続けてきた人だ。中学卒業と同時に就職し働き続ければ60歳までに44年以上の加入期間となる可能性がある。また、高校卒業と同時に就職し働き続けた人であれば、63歳程度まで働くことにより44年以上という加入期間の条件を満たす可能性がある。

退職後の生活設計に活かすために

長期加入者特例は、年金をもらえる金額に大きく影響する。事前に知っておけば、退職後の生活設計に役だつだろう。例えば、60歳から特別支給の老齢厚生年金の報酬比例部分の受給が開始される人で、60歳で厚生年金保険の加入期間が44年に到達するようであれば、60歳で退職し働くのを止める選択肢も出てくるだろう。

60歳以降に44年以上の条件を満たす可能性がある場合は、60歳以降も働き続けることで長期加入者特例の対象となるように、厚生年金保険の加入期間が44年以上になるまで働くという目標を立てるというのも一つのやり方だろう。この場合、必ずしも同じ職場で働き続ける必要はない。パートやアルバイトでも厚生年金保険の加入者として働き続ければ、加入期間として計算される。必ずしもフルタイムで働き続ける必要がないことも覚えておきたい。

また、長期加入者特例が適用されれば、必ず良い結果になると言い切れないこともある。例えば、60歳で定年退職後、再就職して64歳で44年以上の条件を満たした場合、長期加入者特例を適用し定額部分の受給を開始するためには、再就職した仕事をそれまでと同じように続けることはできない。注意点として上述したが、長期加入者特例を適用するには、厚生年金保険の被保険者資格を喪失しなければならない。仕事を続けたい人の場合、年金をもらうためだけに今ある仕事を辞める(または、厚生年金保険の適用にならない仕事に変える)のは矛盾を感じるかもしれない。65歳以降も同じ仕事を続けていこうと考えていた人は、64歳の1年間だけの長期加入者特例のために仕事を辞めるべきなのか、自身の老後設計に合わせて考える必要がある。

文・潮見孝幸(金融ライター)/ZUU online

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