そうした部分で歌舞伎界と世間の大きなズレが表面化したのが、昨年8月に報じられた香川照之の性加害騒動だった。香川は出演していた番組やCMを全降板するなどしたものの、昨年12月に13代目市川團十郎白猿襲名披露の公演で歌舞伎俳優・市川中車として復帰。タニマチ筋から「復帰させてやりたい」との要望があり、それでも勧進元の松竹は当初消極的な姿勢だったが、市川宗家である團十郎の鶴の一声で決まったという。「芸能界追放」状態となった香川ですら許容してしまう、歌舞伎界の特殊性が露呈したともいえる。

 世間を驚かせた市川猿之助の一連の騒動は、週刊誌で報じられたセクハラ・パワハラ疑惑が発端(所属事務所はハラスメントを否定)になったとされている。仮に疑惑が事実だったとした場合、もし歌舞伎界の常識が世間とそれほど乖離せず、歌舞伎俳優であってもそうした行為は絶対に許されないという認識があれば、あのような悲劇はそもそも起きなかったのでは……と思えてくる部分もある。

 歴史と伝統を重んじる世界であるのは理解できるが、モラルに欠けた行動が「歌舞伎役者だから」で許されることが続けば、歌舞伎界の品格にもかかわってくるのではないだろうか。