しかも先輩が後輩に奢るというシステムの中に「お金を持っている先輩に限る」という文言はなく、「先輩」ならお金を持っていようが持っていまいが奢らなければならないのだ。その結果借金をしながら後輩に奢るという芸人は数多く存在していた。吉本興業で言うと品川庄司の品川さんや、千鳥の大吾さんの話は有名で、あとはさまぁ~ずの大竹さんも消費者金融からお金を借りながら後輩に奢っていたと伺った。

 実はこのルールは今は少し和らいでいるらしく、インディーズで活躍しているような芸人たちは先輩だろうが後輩だろうが割り勘にしたり、自分が食べた分を払うという当時の芸人からすれば信じられないようなルール改定が行われているようだ。

 ちなみに僕が芸人をやっていた頃はまだこの「先輩が奢る」というシステムが有効な時代で、僕も一度えらい目に合っている。所属していた事務所のライブを終え帰路につこうとしたその時、後輩の芸人が僕に声をかけてきたのだ。

「檜山さん、今日飯でも食いにいきません?」

 普段後輩とご飯を食べに行ったり飲みに行くことがないので、たまには良いかと思いその誘いに乗った。すると後輩は「他にも後輩誘っていいですか?」と尋ねてきたのだ。自分の財布の中を瞬時に頭で計算し、ある程度の人数でも奢ることは可能だと判断した僕は「いいよ」と気軽に答えてしまったのだ。