損をしてきたと“思い込んでいる”人への、やさしいメッセージ
この物語で重要なのは「ワンテンポ早い」「ワンテンポ遅い」それぞれの主人公の視点が描かれることだろう。劇中で描かれるのはもちろん極端な例ではあるが、実は現実の世界にいる“せっかち”または“のんびり屋”の自覚があったり、そのために恋人ができなかったり、もしくは無駄にも思える時間を過ごして損をしてきたと“思い込んでいる”人へ、福音となるメッセージをはっきりと示してくれる作品でもあるのだ。
そのメッセージは、驚きの凝りに凝ったギミックから始まり、「そこ?」と笑ってしまうほどの事象をもって提示される。そして、せっかちまたはのんびり屋にも限っていない、生きていれば人生のどこかで必ず遭遇する「タイミングが合わない」悩みを持つ人へ、「大丈夫だよ」と言ってくれる、作り手のやさしさを大いに感じることができるだろう。
また、本作はやはり世の中にありふれている、恋愛の「すれ違い」を描いている作品とも言える。劇中で「ワンテンポ早い」と「ワンテンポ遅い」、つまりはツーテンポぶんのズレがある2人の主人公は、表立ってラブラブのやり取りをすることはほとんどない。それぞれが一方的なコミュニケーションを取っている、言ってしまえば“一人相撲”を取っているようなところさえある。その様はコミカルであると同時に切ないからこそ、その“想い”の強さが際立って見えるという構図がある。
とはいえ、劇中のようなファンタジーな出来事は現実では起こるはずがない、というのも事実だろう。ともすれば、しょせんは絵空事だよな、と冷めてしまう人もいそうなところだが、そこにも本作は誠実に向き合っている。とあるショッキングな画を挟んでからの、現実的な視点があればこその、奇跡のようなクライマックスとラストが待ち受けているからだ。そのような奇跡は、きっと現実でも探したくなるだろう。