◆この曲にしてこの人ありの名曲

 オープニング曲「Searching For The Ghost」とともに「Shelly」を歌うのは、作詞作曲も手がけたディーン本人。短いイントロのあと、すぐにサビのフレーズ「Shelly」というトラックタイトルがくる。バックトラックでは、ブオーンというバスドラムの重低音が響く。

 控えめにかき鳴らされるアコースティックギターの優しげな音色もいい。ディーンのヴォーカルが美しく繊細な高音で持続する。繰り返しを基本とするループミュージックのお手本のような音作りへのこだわりを節々に感じる。このグルーヴ感、たまらない。

 作曲の共作でクレジットされているのがUTAで納得した。「BTS」や「ØMI」などへの楽曲提供で知られる日本を代表する音楽プロデューサーにしてトラックメイカーだ。

 米国のR&B現行トレンドのツボをおさえたトラックに、国際派のディーンが歌声を吹き込む。歌詞には5ヶ国語を操るディーンらしい趣向がこらされている。まさに、この曲にしてこの人あり。それくらいの名曲だ。

◆原点はラッパーだった

 UTAとの共作ナンバーからもう一曲「Apple」を。『パンドラの果実〜科学犯罪捜査ファイル〜Season1』(日本テレビ系、2022年)の主題歌であるこの曲では、出だしからディーンのラップが印象的で、彼らしさ全開の遊び心を感じずにはいられない。

 というのも、ディーン・フジオカを語る上で実は絶対に欠かせないのが、ラップだからだ。

 高校卒業後のディーンは、夢の地アメリカへ留学する。シアトルのクラブイベントではよくラップを披露していたという。「Apple」での洒落たラップは、ストリートな感覚があったからこそできる脱力したパフォーマンスだろう。

 その後2004年、香港に渡ったときにもクラブで飛び入りでラップをやっていたらスカウトされる。モデルデビューのきっかけをつかみ、翌年には香港映画で俳優デビュー。そう、ディーンの原点は、俳優でも歌手でもなく、まずラッパーとして語られるべきなのだ。