◆追いつめられた男は逃げるか逆ギレするしかない

 そしてついに、日差しが差し込む朝のリビングで、陽子は昂太に問いかける。

「女、いるよね」

 一瞬にして、脳内コンピューターがとてつもない勢いで動き出したような昂太の表情。それをじっと見守りながら、陽子はじわじわと問い詰めていく。

 結婚したときに、お互いに好きな人ができたら正直に言おうって言ったよね。こんなつらい目にあっても、正直に話してくれたら、あなたを許したいと思う自分がいる。一時の過ちだと認めてきちんと終わりにしてくれたら、私はあなたを許すと伝える。「嘘だけはやめて。嘘は裏切りだから」と。口をはさめないまま聞いている昂太の表情が、だんだん憮然(ぶぜん)としていくのが興味深い。

“完璧な妻”の陽子は、静かな口調ながら、夫をどんどん追いつめていっているのだ。それが男から正直さを奪うことになる。追いつめられた男は逃げるか逆ギレするかしかなくなるのだ。自分の意図や意志をはっきり伝える陽子は、同性から見ると好感度が高いが、夫側から見ると「こわっ」ということになりがちなのかもしれない。