Netflixにはソフト化がされていないものや、過去にされていても廃盤や、権利が切れていて再上映が難しい既存の作品も多く配信されている。
例えば、第74回アカデミー賞の外国語映画賞(現在の国際長編映画賞)にノミネートされ、インドの映画業界全体の制作意欲を大きく変えたといわれる『ラガーン』(01)や、“キング・オブ・ボリウッド”ことシャー・ルク・カーンの主演作『勇者は再び巡り会う』(15)や、『ライース』(17)、アメリカ映画『ミニミニ大作戦』のリメイクである『ゴールド・プレイヤーズ』(12)、セクシー女優シルク・スミタの半生を描いた『ダーティ・ピクチャー』(11)なども配信されているが、あえてここで紹介するなら、『あなたを夢みて』を推したい。
『あなたを夢みて』は、マラヤーラム語映画(モリウッド)俳優のプリトヴィラージ・スクマランの初ヒンディー語映画出演作品。一方、主演のラーニー・ムケルジーにとっても、ある意味ターニングポイントとなった作品といえ、現時点ではラーニーの“最後のラブコメ”になるだろうという点でも貴重だ。
ラーニーといえば、カラン・ジョーハル初監督作品『何かが起きてる』(98)では学園のマドンナ的な役を演じており、『Chalte Chalte』(03)や『Hadh Kar Di Aapne』(2000)といった作品でも笑顔が特徴的なヒロインを演じてきた。とりわけモデル体型というわけではなく、小柄でちょっとふくよか、そしてハスキーボイスが特徴的な俳優だ。
ボリウッドのトップ女優としてキャリアを築いてきたラーニーだが、一方では、その特徴がルッキズム重視の映画業界や批評家界隈では否定され、自分の立ち位置を悩んでいたりと、常に順風満帆だったというわけではない。そんなラーニーが、一部から“短所”とされていた部分を長所として振り切った作品が本作なのだ。
ラーニー演じる主人公は、婚期を逃し、両親からは早く結婚するように急かされているが、お見合いよりも映画みたいな恋愛をしたいという想いを抱きながら、常に妄想をしているという役どころだ。
ラーニーは、近年ではすっかり“力強い女性”や演技派というイメージが定着していた。例えば『女戦士』(14)では、人身売買組織に立ち向かう女性警官を演じ、野蛮な男たちを殴り飛ばしている。また『Hichki』(18)では、トゥレット症候群を抱える教師という難しい役を演じきり、高く評価された。