130万円以上の年収がもたらす問題
前述した「逆転現象」は、第3号被保険者から第1号被保険者への種別変更のみ考慮した場合、130万円の超過分が1年分の国民年金保険料を上回らない限り起こる。
例えば月の収入が10万8000円から12万円に増えたとしたら年収は144万円だ。すると130万円を超えるので第3号被保険者の対象からは外れる。年金の保険料を計算に含めれば、実際の年収は144万円から19万6080円を差し引いた124万3920円になる。月収に換算すると10万3660円となり、増加前より低い。
国民年金保険料は2018年度だと毎月1万6340円、1年で19万6080円になる。年収130万円は月収にすれば約10万8333円なので、保険料を付加されると、月収は約12万4673円、年収149万6080円を超える金額でないと、総合的にはマイナスになってしまう。
しかもこれは年金のみ考慮した場合の例で、現実には健康保険などの扶養からも外れるため支出はさらに増える。
さらに130万円の壁は、年金保険料の未納という問題も引き起こす可能性がある。第3号被保険者に認定される扶養範囲の収入を超えた際には、第1号被保険者への種別変更の届け出が義務付けられている。この届け出を市区町村にしないまま一定期間が経過すると当該期間が保険料の未納期間という扱いになり、基本的には後からの納付ができなくなる(30年9月末までは後納制度あり)。
実態として種別が変わったのならその時より保険料を支払わなくてはならず、届け出は年金記録上の処理のために必要だ。だが130万円を超えた事実を見逃してしまうと、保険料未納という事態を招き、それは後々の年金額にも影響してくる。
会社を退職したら厚生年金・国民年金はどうなる?
(2)の疑問は、会社退職後の対応についてだ。現役で働く会社員にとって、年金の存在はあまり身近ではない。厚生年金の手続きの多くは会社側が行っており、自身が保険料を支払っている意識が薄いためだ。そうなると会社を辞めた際、年金のことを考慮しなかったり、手続きの必要はないと考える可能性がある。
だが年金に空白期間はない。原則20歳以上60歳未満で日本に住む人は皆、国民年金への加入が義務付けられている。会社を退職して厚生年金加入者および国民年金第2号被保険者の資格を失った場合は、国民年金の第1号被保険者として年金制度の適用を受けることになる。
たとえ1、2カ月後には新しい会社に勤めるとしても、1日でも企業に勤めない期間があればその間は第1号被保険者という形で国民年金に加入する必要がある。
またこの場合において、配偶者が第3号被保険者だった時は同時に配偶者の手続きも必要になる。つまり夫婦ともに第1号被保険者へと立場が変わり、保険料の負担を求められることになるのだ。
退職者と学生の国民保険料
このように保険料未納の問題は第3号被保険者の収入超過と同じく会社退職時も起こりうる。もちろん、会社退職からしばらくは再就職しない元会社員(元第2号被保険者)も、第1号被保険者期間に国民年金の保険料を納めないと未納扱いになってしまう。なお所得額によっては申し出をすれば保険料が免除される場合もある。
一方、国民年金の加入は20歳からのため、学生もその年齢に達したら被保険者として入らなくてはならない。ただ「学生納付特例制度」を利用すれば、在学中の保険料納付が猶予される。本人の所得が一定額以下で、夜間や通信を含め大学や短大など学校に通う学生なら基本的に適用される。この時家族の所得額については問われない。
いずれにしても20歳になってから60歳になるまでの間は、最低限国民年金には入ることになる。厚生年金の加入者は同時に国民年金加入者でもある。しかし厚生年金に入っているかどうかで本人または配偶者の国民年金における種別は変わってしまう。その認識が欠けていると、将来受け取る年金額に影響が出たり、後になって未納期間の保険料の一括支払いを求められることにもなる。