5月25日の夕方、長野県中野市で起きた猟銃4人射殺事件は、のどかな田舎の風景を一変させてしまった。

 犯人は青木政憲(31)。青木の前を歩いていた70歳と66歳の女性を続けて刃物で刺し、その後、駆け付けた警察官2人も猟銃で撃ち殺した。

 父親は中野市議会議長で、地元で代々続く果樹園を所有して、息子の名前を取り、「マサノリ園」と名付けていた。果物を使ったジェラート店を軽井沢などに出し、このあたりでは裕福な家だったようだ。

 政憲は地元の小中学校を卒業し、進学校である県立須坂高校に進み、都内の私大に入ったそうである。

 だが、都会に馴染めなかったのか、地元に戻ってきたときには人が変わったようになっていたという。

 そんな政憲は、県の公安委員会から4丁の銃の所持を許可されていた。狩猟と標的射撃が目的だった。

 私が散弾銃を持っていたのは、今から40年以上前になるが、その時分は、月に1回、警察官が来て、保管状態のチェック、使用した散弾の数など、かなり厳しかった。

 だが、政憲の場合、そう厳しくはなかったようだ。犯行後、女性たちが自分のことをバカにしていたと、わけのわからないことを供述しているというが、このような人間でも銃を持てるという今の制度を、今一度考え直すべきであろう。

 信濃毎日新聞5月28日付は、夫から連絡を受けた母親が家に駆けつけ、政憲とこんなやり取りをしたと報じている。

〈お父さんもお母さんも罪を背負うから。自首しよう〉

〈絞首刑は一気に死ねない。そんな死に方は嫌だ〉

〈出頭できないなら、一緒に死のう〉

〈母さんは撃てない〉

〈お母さんがそばで見ているから。最後の場面は自分で決めて〉

〈だったらおれリンゴの木がいい〉 

 だが、息子は思いを遂げられず、空に向けて2回誤射したという。

〈意気地がないんだな。生きたいんだな〉

 母親はそう考えた。

〈だったらお母さんが撃とうか〉

 と持ちかけ、

〈心臓の裏を撃ってくれ〉

 そういってうつぶせになった息子から猟銃を受け取ると、そのまま家を抜け出たという。

 これだけ読むと、政憲は正常のように思えるが、起訴されても心神耗弱と判断されれば、不起訴の可能性もある。

 このところ、銃を使った犯罪がやたら多いような気がするが、犯罪もアメリカに追従しているとしたら、この国は救いようがないのかもしれない。