そのまま12日間ホームレス生活を続け、横浜市の公的機関に保護された男性は、「西六男」と名付けられる。見た目から推測し、仮の生年月日は昭和34年1月1日と決められた。

 西は医師から解離性健忘症と診断される。心に受けた大きなショックから自らを守るため記憶が抜け落ちてしまう病気だ。西は自分の過去についての記憶はないが、入浴や歯を磨くといった日常的な行動は不自由なく、物の名前なども覚えており、生活の支援を受けながら横浜寿町にある横浜市ことぶき協働スペースに通う。一度、同団体で西の動画を作成してSNS公開(現在は非公開)し、情報収集を試みたが、有力な情報は得られなかったという。

 西はわずかながら記憶のある街(横浜中華街、渋谷、新宿)を歩き、街並みから断片的な記憶を取り戻していき、行きつけだったラーメン店を番組スタッフに紹介。自分の記憶について知りたいと話す一方で、「ストレスのかかる大きなことがあったんだろうな」と、知ることを恐れる気持ちもあるようだ。

 目覚めてから8カ月たった20年7月下旬、西は戸籍を作るため指紋をとったところ、警察の記録に指紋が残っていたと報告があり、そこで本当の名前と、昭和33年生まれの62歳であること、さらにはその後、本名をもとに住民票を申請した際、静岡県の富士宮市から転入していたことを知る。