◆“純愛の錬金術師”の力技

 精神的な関係性の不倫。そんなものが成立するかはよくわからないが、何せ岩田剛典という人は、不倫を純愛に変える天才である。その手腕がゆるやかに、かつ手際よく発揮された『金魚妻』(Netflix、2022年)は、どうだったか。

 タワーマンション暮らしの裕福な平賀さくら(篠原涼子)が、夫の愚行に耐えかねて、身を寄せたのが街角の金魚屋だった。店主の豊田春斗(岩田剛典)がひっそり営むその店は、確かに人目につきづらい場所だが、さくらと春斗の密やかな関係性は、不倫すれすれ(いや、実際アウトかな)。不純さの手前で踏みとどまらせたのは、春斗のひたむきな態度だった。

 不倫をむしろ純愛へと移行させた岩田の繊細な演技は、非常に滋味深い。

 そんな“純愛の錬金術師”の力技は、『あなたがしてくれなくても』でも有効ではないか。第4話のラストの橋で、砂時計を渡す瞬間を見て、新名の悪あがき的な誠実さが、本作の不倫を『金魚妻』のように純愛に変化させてしまうかもしれないと感じた。