◆疲れきった妻に「今日だけがんばれない?」とセックスを促す

 妻と向き合いたいと言いながら、結婚記念日にディナーとホテルを予約、部下のミスで仕事をせざるを得ず、遅れてホテルにやってきた妻に「今日だけがんばれない?」と優しい口調でセックスを促す。なんだかなあという感じだ。座ったとたんに寝落ちしそうなくらい疲れている妻に、がんばれないかとセックスを強要するのはどうなんだろうか。がんばって応じてもらったら、愛を感じ取ることができるのだろうか。

『あなたがしてくれなくても』
第2話より
 楓は「いいよ、わかった。それで誠が満足するなら」と言いながら寝室に向かい、自ら衣服を脱ぎ始める。そこでいたたまれなくなる誠。もういい、わかったからと妻を抱きしめると、「あたしだって遊んでるわけじゃないんだよ」と妻は叫ぶ。このあたりは深夜に泥酔して帰って妻に「遊んでるわけじゃねえんだ」と恫喝する昭和の男に近いものが、妻側にある。歩み寄れない夫婦なのだ。

 尽くせばわかってもらえる、尽くせばいつか返してくれる。そう思うことじたいが、どこか情けない。親の顔色をうかがいながら育った誠は、今、妻の顔色をうかがって生きている。