「和歌山県和歌山市。紀伊水道に面した雑賀崎(さいかざき)は、〈紀伊国の/雑賀の浦に出で見れば/海人の燈火/波の間ゆ見ゆ〉と、かつてそう万葉集にも歌われた歴史ある地で、最近はイタリアの景勝地になぞらえ“日本のアマルフィ”とも称される。

 そんな風情漂う静かな港に4月15日の昼前、耳をろうするドーンという爆発音が鳴り響いた」(新潮)

 岸田文雄総理(65)は小雨降る中、衆院和歌山1区補欠選挙の応援のため、演説会場となった漁港を訪れていた。スピーチへと移る矢先に爆発物が投げ込まれて炸裂。約200人の聴衆から悲鳴が上がり、現場は混乱に陥った。

 警視庁のSPや和歌山県警警備部は、誰より先に危険排除へ動き出すべきだったが、出足は鈍かったという。

 彼らの代わりに爆弾犯の身柄を取り押さえにかかったのが二人の漁師だった。その一人、寺井政見(67)の話。

「船の板子一枚、下は地獄。せやから、わしらは助け合っとる。(今回も)仲間が犯人に飛びつくのを見て、お手伝いしただけや。(それに)悪いことをやった人は捕まえなあかんからな。それだけのことや」

 さらにこんな豪胆な行動にも出た。

「犯人が(投げようとしていた2発目の)爆弾を落とすのを見たからね。それを拾って、警察のほうに持って行こうとしたんよ。そしたら警察の人は、そこに置いといてくれっちゅうて。(爆弾の重さは)1キロないぐらい。重量感はあった」

 漁師らの協力を得て和歌山県警が威力業務妨害の容疑で現行犯逮捕した木村隆二(24)は、手提げカバンの中に刃渡り13センチの果物ナイフもしのばせていた。

 木村容疑者は、兵庫県川西市の閑静な住宅街に建つ一軒家で母親(53)と姉(28)、学年がひとつ違いの兄(25)と暮らしていた。

 小学校の卒業文集に木村はこう綴っていたそうだ。