主な意見としては「原作に忠実ではない」や「ディズニーは最近ウォークすぎる」というものだった。

 この場合の「原作」とは1989年にディズニーが製作したアニメ映画『リトルマーメイド』、もしくはデンマーク人作家、ハンス・クリスチャン・アンデルセンが1837年に発表した小説『人魚姫』を指す。「原作に忠実であるべき」という批判の背景には、アニメ版のアリエルが白人として描かれていることに加え、デンマークを舞台にしている作品である以上、白人がふさわしいという理論が見て取れる。

 しかし、そもそもアニメ版でさえ『人魚姫』を大幅に脚色し、主人公の悲恋をハッピーエンドに描きなおしたばかりか、舞台をもカリブ海に移している。アラン・メンケンが作曲しアカデミー賞歌曲賞を受賞した劇中歌”Under The Sea”はカリプソのリズムが取られているし、それを歌唱するセバスチャン役の声優、サミュエル・E・ライトも意識的にトリニダード・トバゴ訛りを用いている。

 ではもうひとつの批判である、ディズニー社の近年の「ウォークさ」とはなんであろうか。「ウォーク」はもともと「wake」の黒人訛りに由来し、「目覚めている」こと、つまり差別や不平等に対して立ち上がることを指し示す言葉だが、この語の意味はそれを用いる者の政治的立場やイデオロギーによって変容する点で興味深い。リベラル層が用いる場合、「差別を許さない」ポジティブな用例なのに対し、保守層が用いると「敏感すぎて軟弱」とか「ポリティカル・コレクトネスを遵守しすぎる」という批判や揶揄含みになる。