今回、さらなる新しいチャレンジにクリス・ロックを迎え、しかもオスカーの授賞式一週間前というタイミングで展開したことは示唆に富む。当然、筆者を含めた視聴者の多くが、昨年のオスカー授賞式でのあの「ビンタ騒動」を想起した。そしてあの一件以降、ツアーなどでアドリブのネタとしてはあるものの、公式な見解や、作り込んだネタとしての発信がなかったロックが何を語るのかに、配信前から大きな注目が集まった。

 筆者の住むシカゴでもその注目度は凄まじく、土曜の夜という繁忙期にもかかわらず、本作をパブリックビューイングするために、特別スケジュールに変更するコメディクラブもあったぐらいだ。

 実際、これまでのスペシャルと異なり、ライブであるがゆえに編集の効かない一発勝負の舞台は、独特の緊張感が漂っていた。撮影の行われたボルティモアの大劇場では観客を温めるべく、超豪華なコメディアンに加え、ポール・マッカートニーといったミュージシャンまでもが2時間以上も前から「前座」として現れ、会場を沸かせた。

 そして、会場の熱気が最高潮になったところで満を辞して登場したクリス・ロック。昨年の一件から、評価は急上昇し、ツアーのチケット価格は高騰。一部の地域では1000ドルを超えるプレミアとなった。これまで数えきれない数の大舞台を経験してきたレジェンドでも、この日のライブは緊張の面持ちなのが画面越しに伝わる。そして、あろうことか最終局面で、オチの部分を言い間違えてしまうという失態を犯すが、それもライブ配信ではそのまま世界に届けられ、皮肉にも「生」であることがより強調された。