自身に降り注ぎ続ける火の粉を払いきれず満身創痍の鷲津。そんな政界の弱者に手を差し伸べた内閣総理大臣・竜崎始(高橋克典)の思惑に気づけたのは、昔から支え続けてきた仲間を信じることができたからだ。国会議員としてのイスを守るには、もはや竜崎の傀儡として生きる道しかない鷲津は、一時は親友の鷹野聡史(小澤征悦)を裏切り、陥れようとするまでに落ちるかに見えた。かつて理想に描いていた「弱い者のために力を振るう」善良な政治家の道だけでなく、人の道までをも踏み外そうとする鷲津があと一歩のところで踏みとどまれたきっかけは、妻・可南子(井川遥)が離婚届を突きつけるという荒療治だったかもしれない。ただ、そこで己が鶴巻に言われたように「権力という魔物」に魅了されてしまっていることを自覚し、そこから脱しようともがき出せたのは、息子・泰生(白鳥晴都)の存在が大きかったのではないか。
第10話では、疑心暗鬼に陥るあまりに鷹野を疑い、出世した自分を羨んでいるのだろうと言って「苦労知らずの二世議員」呼ばわりし、鷹野を激高させた鷲津。そんな様子を見て「どうしちゃったのよ」とたしなめようとした妻の可南子にまで苛立ちをぶつけ、鷲津は可南子をも怒らせる。そんな鷲津に、かつて父親を尊敬していた息子・泰生(白鳥晴都)からも「かっこ悪ぃよお父さん。最低」と軽蔑されてしまう。その後、多忙な鷲津が泰生と関わるようなシーンはなく、離婚を決意した可南子から、泰生が可南子についていくことを決めたこと、鷲津が変わり果ててしまったのは自分のせいだと言っていたことを聞いた鷲津は、下校中の泰生に接触しようとする。そこで目撃したのは、同級生へのいじめを勇気を出して制止し、助けられた同級生から「ありがとう。すごいね、鷲津くん」と言われると、かつて泰生に対して自分が言っていたように「別に、普通でしょ」と返す泰生の姿だった。泰生の中には、尊敬していたかつての父親の信条がまだ生きていた。最終話のハイライトとなった“竜崎降ろし”を決意させたのは、鷲津が忘れかけていた正義が泰生によって目覚めたからだろう。本作の名シーンのひとつとして推したい。
第10話で、鷹野が鷲津に相談しようとしたのは、まさにその竜崎の件だった。竜崎は女性関係で地元の反社会的組織の人間ともめ、その解決のために別の反社に1億円を払って仲介を依頼し、以来、その反社との関係が続いており、公共事業の斡旋をしていた。鷹野は週刊誌記者の熊谷由貴(宮澤エマ)と共に、この疑惑を追及していたのだった。鷲津に罵倒されても、変わらず鷲津に自分の狙いを打ち明けた鷹野は、鶴巻を引退にまで追い込んだ鷲津の覚悟に「負けていられない」と思ったと告白する。そんな鷹野の想いを、表向きは“竜崎派”として聞き流し、その場を立ち去った鷲津だったが、実はすでに竜崎の言いなりにならないと決めていた。竜崎の秘書官である猫田正和(飯田基祐)に監視されているのに気づき、あえて鷹野と決裂していることを演出し、見せつけたのだった。翌日、鷹野のもとをひっそり訪れ、真意を明かした鷲津は「最後のでかい罠」を提案する。
可南子との離婚を成立させたうえで鷲津が仕掛けたのは、すべてを白日のもとに晒す、“自爆”ともいえるものだった。鷲津はテレビの生中継、そして熊谷の協力による生配信を通して、自分が選挙違反の過ちを犯したことを告白し、「力に酔って、善人になったつもりが、取りつかれていただけだ。力に、権力に」と言って、自分に都合の悪い記事を握りつぶしたこと、自分への汚職疑惑を秘書のせいにしようとしたことなどを認める。そして、竜崎にストップをかけられていた鶴巻の汚職を暴露し、さらに竜崎と反社の関係までぶちまける。妨害しようとする猫田の姿までもが配信されるなか、鷲津は「秩序が壊れる? 国が乱れる? ガス抜きのためにまた総理を変えなきゃならならい? 何が秩序だ! この程度で壊れるぐらいのものなら、壊れればいい」「不正を隠ぺいしてまで守らなきゃならない? そんな政治なんて、壊れちまえばいいんだよ!」と叫ぶ。腐敗した権力への怒り、そして自らもそんな権力そのものになってしまったことへの後悔を訴えた鷲津は、千葉県警にみずから足を運び、自首するのだった。