◆「だったらいいのに」繰り返しが自然に入り込んでくる理由

 まず今年1月にアップされ、現在までに6.8万いいねを獲得した「だったらいいのに」。メロディやハーモニーを加える音色は一切なく、リズムマシンのドラムの音のみ。

 歌詞は“~だったらいいのに”という叶わぬ願いを色々なバリエーションで表現しつづけて、メロディは2パターンをひたすら繰り返す。ここには展開と呼べるような起伏もなければ、膝を打つ説得力もありません。

 にもかかわらず、いや、だからこそなのでしょうか、この歌は自然に入り込んできます。すべてを“だったらいいのに”という構文に落とし込むことで、曲を特徴づける明確なパターンが生まれる。

 これはカナダのシンガーソングライター、ニール・ヤングが言うところの“アイデア”に当たる部分で、作曲において最も重要なモチーフです。やす子の曲はこの着想に揺らぎがないので、余計なものを後から付け足さなくても成立するのですね。

 ここにBメロやサビにあたる部分を加えたり、歌詞に“だったらいいのに”以外のオチを加えたりしたら途端に色あせてしまうでしょう。