いろいろな感情が頭を巡ったが、僕は「わ、わかりました」と、恐怖に震え慄きながらその場を後にした。

 楽屋に帰ってから、本番までずっとその言葉が頭から離れず、一体どうすべきなのかをひたすら考えていた。そして出た結論は「失礼じゃないと思えばつっこんで良いってことか」だった。後で怒られてもいいから、とりあえず全力でやろうという考えに達し、本番を迎えた。

 心のどこかで、なるべくツッコミを入れないで済んだらいいなぁと思っていたのだが、その演歌歌手の方はこれでもかというくらいボケてきたのだ。こうなったらやるしかない。いつもより強めで、時には「黙れ」などと失礼極まりないほどのツッコミを入れまくり、とりあえず会場は笑いに包まれた。

 絶対怒られると覚悟しながら、その演歌歌手へ「お疲れ様でした」と挨拶すると、僕を見て一言「面白かったよ」と言ってくださったのだ。その瞬間、全身の力が抜けてしまい、これ以上ないほどの安堵感に包まれた。