◆「え?」のボイスドラマ

©2023浅野いにお・小学館/「零落」制作委員会
 次第に彼の声を不思議と聞き取れるようになる。それは、猫顔の女性を偏愛する深澤が、落ちぶれ始めるきっかけになるひとりの風俗嬢との出会いからだ。ちふゆ(趣里)という源氏名を持つ彼女と華美な装飾のラブホテルで最初に会話を交わす場面に耳を澄ましてみる。

「ですか?」と聞くちふゆに対して深澤は、「え?」と聞き返す。それまでほとんど誰ともコミュニケーションが取れておらず、聞き返される側だった深澤が逆に聞き返した瞬間、コミュニケーションがはじめて成立する感動がこの場面にはある。

 このあと、ふたりは親密な関係性になり、何度も逢引を重ねることになるのだが、その間、深澤の口から合計3度の「え?」が発せられる。この一文字だけが聞き取りやすいことが奇妙だ。斎藤工による「え?」のボイスドラマはまだまだ続く。