浅野いにおの原作に忠実な形でストーリーは展開されるが、細かい違いもある。ちふゆの故郷まで一緒に旅した深澤だったが、やがて別れの時間が訪れることに。

竹中「原作にはないですが、ちふゆの田舎で、去ってゆく深澤の後ろ姿を見つめているちふゆが、思わず『薫くん!』と小さく叫ぶシーンを撮りました。一瞬だけ、ちふゆは深澤に恋をしたんじゃないかと思ったんです」

 大人同士の割り切った関係の中にも、どこか割り切れない想いが残る。浅野いにおの原作コミックが忠実に映画化されているが、それでも原作からはみ出した生々しい感情が映画には溢れている。割り切れない想いやはみ出した感情が、とても愛おしく感じられる。

 かつて売れっ子漫画家だった深澤は、“零落”という名の生き地獄へと堕ちていく。堕ちていく人間にしか味わえない、格別な世界だ。竹中監督は、そんな世界にある種の美しさを見い出しているようだ。

『零落』
原作/浅野いにお 監督/竹中直人 脚本/倉持裕 音楽/志摩遼平(ドレスコーズ)
出演/斎藤工、趣里、MEGUMI、山下リオ、土佐和成、信江勇、宮﨑香蓮、玉城ティナ、安達祐実
配給/ハピネットファントム・スタジオ 3月17日(金)よりテアトル新宿ほか全国公開
©2023 浅野いにお・小学館/『零落』製作委員会
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