まずはこちらのハイキャリア「不朽の名作」から:

現在、出版翻訳家として活躍されている寺田真理子さんの「マリコがゆく」。第一回の『そんな紙切れが、こんなにほしいの』をぜひご覧になってから、以下の続きを読んでくださいね。

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マリコさんがお書きの通り、私たち通訳者にとってライフラインとなるのが「資料」。事前に頂けるか否かで当日のパフォーマンスは劇的に違ってきます。私自身、これまでの業務を振り返ってみると、

「資料は一切ありません」

と言われて現地入りするや、

「イラッシャイマセ~」と言わんばかりの状態でデスクに山のような資料が置かれていたことも。

一方、エージェントのコーディネーターさんが必死にクライアントさん(の窓口。別会社だったりする)に頼むも、なかなか得られず、当日になり、

「シバハラさん、申し訳ないです!!資料、届いてないです」

と開口一番。もっとも、私の方も長年この仕事をしてきましたので、さほど驚かず、

「わかりましたっ!ベストを尽くします」

と開き直るしかありません。が、いざ開演するや通訳ブースから見えるのは、原稿をしっかと手にして登壇なさるスピーカー。第一声からマシンガンで原稿読み上げスピーチ展開へ。これも割と(いや、結構?)あります。「通訳業界あるある」です。

さて、ここで問題。いよいよ明日に迫った大事な国際会議。資料は届いていません。さあ、皆さんなら「いつまで」資料を待ちますか?以下からどうぞ:

A 重量級セミナーなので、とにかく届くまで起きて待つ
B 明日は長丁場の通訳なので、24時までは待つ
C 通訳は体力勝負!さっさと22時には寝て、明日少しだけ早起きする

この選択肢、実に迷います。デビュー当時の私は「A」でした。とにかく不安でたまりませんでしたので、取り組めるうちに予習しておきたかったのです。万が一、翌朝にどさっと資料が来たら準備時間不足となるからです。実際、このケースで夜通し準備をしたことがあったのですが、翌日のパフォーマンスに響きました。午前中は良くても、昼食後にガクンとアウトプットの質が下がるのです。

これではいけないと反省し、次からは(しかもこのようなケースはしょっちゅうあり)、「B」へ。とりあえず24時まで待って、来なければ寝る。そうすれば6時間ぐらいは睡眠確保できます。しかし!「まだ来ない」「まだ来ない」と思うにつれて、心拍数が上がってしまい、寝付けなくなってしまったのです。ベッドに入った以上、今更起きてPCを開けるのも何ですし、でも寝なきゃいけない、でも眠れない。翌日は頭がさえずに起床。ボーっとしたまま現地入りで、やはりパフォーマンスがイマイチとなったのでした。

で、行きついたのが「C」。「来ない?じゃ、いつも通り22時に寝よう」と達観するようになったのです。日頃CNNの早朝シフトで22時就寝が定番になっているため、ただでさえ夕食後に眠気襲来。そこで普段通り寝て午前4時(これもCNNシフト時の起床時間)に起きれば、出発まで2時間は予習できます。つまり、いつも通りの生活・睡眠サイクルのままで過ごせるわけです。たとえわずか2時間でも、精いっぱい集中して準備できるのですね。

この「通訳資料待機状態」、何かに似てるなあと思ったところ、例の武将のホトトギス句。そこで以下、通訳者バージョンをどうぞ:

「来ないなら 来させてみよう 通訳資料」

「来ないなら 来るまで待とう 通訳資料」

「来ないなら さっさと寝よう 通訳資料」

・・・開き直る、という観点で見ると通訳者は織田信長??

(2023年2月21日)