◆映画はいつだって現実の何歩も先を描き、ここではない世界へ誘ってくれる

あの時ああしていればと人生の“if”を考えだしたらきりがない。違う道を辿(たど)った自分がもっと幸せなのだとしたら、ここにいる自分の価値って何だろう?とすべてがやるせなく思えることもある。でもエヴリンの言葉に今この世界にいる自分を愛しく、誇らしく思えた。違う人生を選べはしないけど、今まで歩いてきたのとは違う一歩を踏み出すことはできるのだと。

「老人は退場しろ」、「同性愛者は不快だ」と平気で口にする人がいる悲しい時代にこの作品に出合えて嬉しい。映画はいつだって現実の何歩も先を描き、ここではない世界へと私たちを誘ってくれる。

一回じゃ本作のすべてを消化しきれてないからまた絶対に映画館に行かなくちゃ。確定申告のつらさが刺さる作品でもあるのでフリーランスの皆さまは心を強く持ってご観賞いただきたい。

『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』

監督/ダニエルズ 出演/ミシェル・ヨー、キー・ホイ・クァン 配給/ギャガ ©2022 A24 Distribution, LLC. All Rights Reserved.

<文/宇垣美里>

【宇垣美里】

’91年、兵庫県生まれ。同志社大学を卒業後、’14年にTBSに入社しアナウンサーとして活躍。’19年3月に退社した後はオスカープロモーションに所属し、テレビやCM出演のほか、執筆業も行うなど幅広く活躍している。