◆この脚本は正気で書かれたのか、製作会議の様子を思わず想像してしまった

映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』より
よくわからないけどとんでもないものを見てしまった……。目をまん丸にして驚いたかと思えばあまりに下品なギャグにゲラゲラ笑い、家族愛に涙をぼろぼろ流す。情緒が忙しすぎて観賞後しばらく呆然としてしまった。ああ、この作品は祝福だ。

経営するコインランドリーの税金問題に優しいけど頼りにならない夫、保守的で頭の固い父親に反抗期の娘。なにかと人生がうまくいかない中年女性のエヴリンは、ある日、夫を乗っ取った別の宇宙の夫から「全宇宙にカオスをもたらす強大な悪を倒せるのは君だけだ」と告げられた。異次元の自分にジャンプしその能力にアクセスすることでカンフーの達人となり、襲い来る敵に立ち向かう。

何を言っているかわからないと思うが、観賞後の私だってよくわからない。この脚本は正気で書かれたのか、製作会議の様子を思わず想像してしまった。

ストーリーもアクションも衣装も映像もすべてがバキバキに尖(とが)っていてユニークでまさにクィア。カンフーマスターや歌手や女優とさまざまな姿のミシェル・ヨーが見られるだけでもう楽しい。しかしカオスな多次元旅行の末に、こんな心温まる結末が待っているなんて。