サウスウェスト航空を買収?

そうしたなか、現金が有り余っていても性急に投資先を見つけないのは、バークシャー・ハサウェイの株主を守るためだと、バフェット氏は言う。

「(パートナーのチャーリー・マンガー氏と)私が、株主の皆さんに不要なリスクを負わせることは狂気の沙汰だ。買収の機会は干ばつ状態だが、非常に大きな買収機会はいつか現れる。だが今しばらくは、他の投資企業が賢明でない投資を行うことを真似ず、より賢明な投資(買収を控えること)を心掛ける」と綴っている。

とはいえ、手紙にあるように「弊社の保険以外の事業の収益を上げなければならない」ことは明白であり、バフェット氏は手持ちの現金で、「航空会社をまるごと一つ、買うこともできる」と発言している。

米航空業界は再編が進んだために競争が緩和され、収益性が上がっており、バークシャー・ハサウェイが2016年から大量保有を始めた。そのなかでも、時価総額が約340億ドル(約3兆6132億円)で収益性のよいサウスウェスト航空が「予算内」に収まるため、標的になるのではともっぱらのうわさだ。

ここに、風林火山(疾きこと風の如く、徐かなること林の如く、侵掠すること火の如く、動かざること山の如し)ばりの、バフェット氏の戦略がある。動く時は素早く動くが、動かなくてもよい時はあせらず、泰然と振る舞うのである。

今年の手紙のなかでバフェット氏は、「投資家が必要とするのは、大衆の恐怖や熱狂を気に留めず、二、三の単純なファンダメンタルズに集中することなのだ」と助言を送っている。

抜け目なさで増益 投資で成功する秘訣とは?

トランプ相場で「おトク」な買収先が減って苦労するバフェット氏だが、一方でちゃっかりとトランプ大統領の税制政策で大儲けしたことを、今年の「投資家への手紙」で報告している。

バークシャー・ハサウェイの株主価値は2017年に650億ドル(約6兆9223億円)も増加したが、その内同社の事業の貢献は360億ドル(約3兆8339億円)に過ぎず、「残りの290億ドル(約3兆884億円)は、12月に米議会で成立した税制改革法による節税分だ」と、バフェット氏は年次書簡で述べた。

バフェット氏が反トランプの考えを持っていることは周知の事実であり、2016年の大統領選挙中は対立候補のヒラリー・クリントン元国務長官を支持していた。さらに、税制改革法案が米議会で審議されていた際には、「ここまで米国で経済格差が拡大するなか、弊社にさらなる節税は要らない」と述べていた。

しかし、税制改革法が成立して転がり込んできた290億ドルは、しっかりと懐に入れている。こうした清濁併せ呑んで株主に報いる抜け目のなさもバークシャー・ハサウェイの株主価値の源泉であり、「投資家への手紙」はバフェット氏の投資哲学の柔軟性を示している。

このように、2018年版の「投資家への手紙」は、平常心や抜け目なさが収益増大の秘訣だと教えている。市場ではボラティリティが高まりつつあるが、バフェット氏は書簡で、「そういう時こそ、投資家はシンプルなファンダメンタルズにますます集中するように」とアドバイスしているのである。

文・岩田太郎(在米ジャーナリスト)/ZUU online

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