昨年、警察庁が公表したところによれば、山上が発砲したのは2回。安倍の真後ろ、約7メートルの位置から最初の発砲。さらに約5.3メートルの位置まで近づいて2回目の発砲。

 文春が事件の映像を確認すると、1回目の発砲音に気がついた安倍元首相が、左側から後方を振り返っているから、被弾したのはこの発砲だったことがわかる。

 だが、3度にわたって事件現場に足を運ぶなどして、独自の検証を続けてきた銃器評論家の高倉総一郎はこういっている。

「被害者の体勢では、首の右側に弾が当たるとは考えられない。そのため、私は首の右側の銃創について、別の傷から入った弾が身体の外へ出た『射出口』ではないかと推測していました。それが一番合理的な説明だからです」

 自身も狩猟免許を持っている自民党の高鳥修一元農水副大臣も、

「結局、警察庁幹部から右前頸部の銃創について納得のいく説明はありませんでした。彼らは一度目には、私の疑問に対し『(山上は、安倍氏の真後ろよりも)もっと左から撃った』と、その場を取り繕う言い方をした。二度目の説明の場ではそうした発言はなく、ただ『大きく振り返ったからだ』と」

 だが、警察庁は山上が発砲した位置についても特定しているから、「もっと左」という可能性はないはずである。

 警察幹部ですら合理的な説明のできないのではと、文春は専門家の助言のもと、実証実験を行ったという。

 安倍元首相は、映像では足の位置を変えずに、ごく自然に後ろを振り向いているから、山上の位置からでは、右前頸部に弾が当たる可能性は極めて低いという結論になった。

 被害者役の記者が悲鳴を上げるほど大きく振り返れば、右前頸部に当たる可能性もあるが、その後、銃弾が左上腕部に当たった後、体内で大きく角度が変わらなければ、鎖骨下動脈を傷つけることにはならないというのだ。

 実証実験では、右前頸部になぜ弾が当たったのかの合理的な説明ができない。