◆エゴは狡くて優しくて、温かくて寂しくて、だから全部愛だった
鈴木亮平演じる浩輔のハイブランドの服装や、描き足した眉毛で武装する一方で隠し切れない繊細さや、龍太役の宮沢氷魚が浮かべる天使のような笑顔にふと差す陰、龍太の母を演じた阿川佐和子の包み込むような存在感。ただそこに生きているようなキャスト陣のリアルな佇(たたず)まいは圧巻の一言。
共演者に当事者をキャスティングした説得力あるゲイ描写や、“普遍的な愛の形”などという陳腐(ちんぷ)なワードを使わない宣伝に、信頼できる作り手の作品だと感じた。
描かれる三者三様の愛の形。それぞれのエゴは狡(ずる)くて優しくて温かくて寂しくて、だから全部愛だった。表裏一体な愛とエゴの間でもがき苦しみ、それでも自分にできることは全部せずにはいられない浩輔の姿がただただ愛おしい。
私たちはみんなエゴイスト。愛がなんであるのかわからないまま、ただ相手がそう受け止めてくれることだけを祈って想いを育み、救い、救われ生きていく。
『エゴイスト』
監督/松永大司 出演/鈴木亮平、宮沢氷魚、阿川佐和子ほか 配給/東京テアトル ©2023 高山真・小学館/「エゴイスト」製作委員会
<文/宇垣美里>
【宇垣美里】
’91年、兵庫県生まれ。同志社大学を卒業後、’14年にTBSに入社しアナウンサーとして活躍。’19年3月に退社した後はオスカープロモーションに所属し、テレビやCM出演のほか、執筆業も行うなど幅広く活躍している。