人間が危機感を感じる一番の理由は、歳をとったと感じた時だ。それをどのタイミングで感じるかは人それぞれ。何者にもなれないまま死んでいくことへの恐怖を実感したからこそ、コルムは急いで何かになろうとしたのだ。それが芸術家だったということではないだろうか。

 中には若くして感じる人もいる。例えばパードリックの妹・シボーンもそうだ。兄と孤島でふたり暮らし、決して不幸せというわけではないが、何かに違和感を持っている。結婚しないのも、島という呪縛に縛られたくないからだ。

 その一方でパードリックは、島での暮らしが“当たり前”と思っていて、なんの違和感も持っていない。純粋そのものだからこそ、コルムもシボーンもそんなパードリックを見ているとイラ立ってくるのだ。しかし、それは決してパードリックが悪いわけではなく、島という環境がもたらした人間性である。だからこそ拒絶することで距離を取ろうとするが、それがかえって逆効果。

 嫌いだからじゃなくて、嫌いになりたくないから避けているのに、パードリックが寄り添ってくるものだから、どんどんドロ沼化していってしまう。孤島という環境に限らず、保守的な田舎も同じかもしれないが、自分たちの育ってきた環境にふとした瞬間、違和感を持ち始めた者にとって、その環境が作り上げた人間性全開な男が近づいてきたら、悪夢でしかない。