登場人物の心情がよくわからないという意見もあるかもしれないが、孤島という環境で生きることを改めて考えることで、そのメッセージ性はなんとなく伝わってくるようにも感じられる。

【ストーリー】
本作の舞台は本土が内戦に揺れる1923年、アイルランドの孤島、イニシェリン島。島民全員が顔見知りのこの平和な小さい島で、気のいい男パードリックは長年友情を育んできたはずだった友人コルムに突然の絶縁を告げられる。急な出来事に動揺を隠せないパードリックだったが、理由はわからない。賢明な妹シボーンや風変わりな隣人ドミニクの力も借りて事態を好転させようとするが、ついにコルムから「これ以上自分に関わると自分の指を切り落とす」と恐ろしい宣言をされる。美しい海と空に囲まれた穏やかなこの島に、死を知らせると言い伝えられる“精霊”が降り立つ。その先には誰もが想像しえなかった衝撃的な結末が待っていた…。

孤島という環境がもたらした人間性への違和感

 パードリックとコルムの間の溝は、コルムが特別な才能があったわけでもないというのに、急に芸術家ぶりはじめたことがきっかけとなっている。単純に芸術家になりたいという意思もあったかもしれないが、田舎で育って歳を重ねたコルムにとって、そのまま何者でもないまま死んでいくことに耐えられなくなったのだ。

 孤立した島の中で、変わらない日々を“当たり前”なものとして過ごしてきた。周りの人々も生活に疑問を持っていない。1920年代という時代もあって、情報がそれほど流通しているわけでもなく、そもそも自分の生き方に疑問を持つような雑念があまりなかったのだろう。